3.19.2014

#13 GAGLE「VG+」



 GAGLE、久々のオリジナル・アルバムである。オリジナルとしてはメジャー配給であった4作目『SLOW BUT STEADY』からおよそ4年半ぶりであり、年月だけで考えれば決して短いインターバルでないことは明らかだ。

 しかし、その間にOvallとの共作アルバム『GAGLE×Ovall』を2012年に発表し、MCのHUNGERは数多くのアーティストの楽曲に客演で参加、自身が主宰するレーベル「松竹梅レコーズ」は、昨年設立10周年の節目を迎えた。DJ Mitsu The Beatsに至ってはインストゥルメンタル・アルバム『Beat Installments』と『Beat Installments Vol.2』をそれぞれ2012年、2013年にリリース。またDJ Mu-Rは海外の老舗レーベルDelicious Vinylのオフィシャル・ミックスCD『Delicious Vinyl 25th Anniversary Mix CD』のミックスをMitsu The Beatsとともに手掛け、活動拠点を置く仙台を中心に現場のDJとしてのスキルをさらに磨き上げた。

 各々、ソロ活動で得たものを母体に還元する準備を着々と整えながら、なによりGAGLEの長きインターバルを払拭した出来事は、東日本大震災における被災後のチャリティ・シングル「うぶこえ(See the light of day)」からスタートした一連のチャリティ活動であったことは間違いないだろう。

 当時、HUNGERは「東日本大震災を受けて、リスナーの気持ちを奮い起こす楽曲を制作すべきか、それともユニークなスタイルで聴き手を笑顔にすべき楽曲を制作すべきか、GAGLEとしてどのようなアルバムを作るべきか悩んでいる」と語った。被災した土地で活動しているからこそ浮き彫りとなった問題と対峙しながら、彼らはまず「うぶこえ(See the light of day)」を発表し、その後『うぶこえLIVE』なるチャリティ・イベントを成功させ、さらに2013年には東日本大震災を風化させないためにの継続的なシングルである「聞える(Good to Go)」のリリースへも漕ぎ着けた。その活動はGAGLEというグループの結束力をより強固なものにし、今回の新作『VG+』の完成度を高める大きなファクターとなったと言える。

 GAGLEの作品といえば、すべての楽曲をプロデューサーであるMitsu The Beatsが手掛けてきたが、今作『VG+』ではMitsu The Beatsの楽曲に加え、外部プロデューサーの起用も積極的に採用している。ただ単に勇気を奮い起こすだけでなく、ただ単にユニーク一辺倒に偏るわけでもない。収録曲に耳を傾ければ、前述したHUNGERの悩ましき問題がどのように解消されているかも、おぼろげながら見えてくるはずだ。そして、そこに見え隠れするのは、彼らが『SLOW BUT STEADY』から『VG+』までに要した時間を拭い去ってしまうほどの「これまでのGAGLE」の安心感と「これからのGAGLE」への期待感だ。

 この『VG+』という言葉は、「Very Good Plus」=アナログ・レコードのコンディションを示すもので、“新品同様”のものは“Mint”と呼ばれ、次点で“Near Mint”(限りなく最良の状態)、“Very Good Plus”(多少の傷が散見される)と続く。

 GAGLEが新作のタイトルを『VG+』と命名した背景には、東日本大震災で傷ついたことも含まれているかもしれない。しかしそれ以上に、アナログを何度も何度も繰り返し聴くことによって愛着ゆえの“傷”を負ってしまうことを意味しているのだろう。たとえコンディションが「VG+」であったとしても、彼らが作り出した『VG+』そのものの音が色褪せることは、決してないのだ。


 すべての迷いを断ち切り、万全の体制で作り上げられたGAGLEから届けられた音楽の処方箋。『VG+』は、ひとりでも多くの人間の心を「Very Good Plus」にしてくれる。